1206  傷口に効く薬

 例えば、尖った針でチクチクと突っつかれるような。
 例えば、鋭利な刃物でサックリと斬り付けられるような。
 例えば、心臓をギュッと握りつぶされるような。
 傷付いた時に受ける痛みはいろいろあるけれど、きっと今の君はそれらの痛みの全てを心に受けている。私が治してあげられたらいいのだけれど、どうやっても無理なことは承知している。多分一番効果のある薬は時間だろう。今はまだその痛みに耐え、自身の持つ自然治癒力で少しずつ治していくしかない。
 大丈夫。傷は必ず癒えるから、今はただ安静にしていてほしい。きっと誰でも、傷付き苦しんだことと引き換えに、必ず得るものがあるはずだから。



 1211  雨の思い出

 遠い日の記憶を手繰り寄せる。
 私は雨が好きな少女だった。雨が降ると傘なんて持たずにお気に入りの長靴を履いて家を飛び出していた。水溜まりを覗き込んで水面に映る自分に微笑みかけていたのは、彼女はきっと私にそっくりな地面の下の世界に住む女の子なんだと思っていたから。
 どうして人間は子供のままいられないのだろう。雨上がりの濡れた地面を見ながら思う。あの頃の純粋な心を取り戻そうとして想像を広げてみたけれど、思い浮かぶのは憂鬱になりそうな現実ばかりだった。苛立って足元の水溜まりを蹴ると、跳ね上がった泥水が私の靴の爪先を汚した。