0208  狭間

 疲れた体を引きずりながら駅に向かう。正面から吹く風が私の瞳の薄い膜を乾かしながら通り過ぎていく。白く滲む靄の世界は余りにも空虚で、私は夢の中にいるのではないかと錯覚する。顔を上げて目を擦る。耳を澄ます。瞬くイルミネーション。鳴り響くクラクション。人々のざわめき。喧騒が私の意識を現実の世界に引き戻す。ああ、やはりどうやっても向こうの世界には逃げられないのだ。
 私はトレンチコートの襟を立てて姿勢を正す。そしてハイヒールの踵を鳴らしながら駅へと急いだ。