1001  遠吠えが響く夜

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。さっきまで斜め上から私を見下ろしていた月も、空の一番高いところを通過して、既に向こう側に傾いてしまった。
 出会っても簡単に近づくことが出来ない私達は、君が昨夜この世界のセオリーを破ったことによって近づくことが出来た。楽しい時間をまた近いうちに共有できればと思いながら、私は月を見上げた。



 1002  私が私であるために

 人の意見に流されがちな私は、いつも誰かの意見に流された後に落胆する。私の意志はどこにあるんだろうと。
 私という人間は一人しかいないし、私の意志は誰のものではない。自分をしっかり持たないでどうするのよと、私は自分に言い聞かせる。私は他の誰にも成り得ないのにね。



  1004  覚醒

 心の中に一粒の温かい雫が音を立てて落ちた。それは私の心の敏感な場所を優しく突っついて、ゆっくりと浸透していく。その刺激によって、しばらく眠っていた感覚が目覚めたことに私は気付いた。
 柔らかな痛みは心地良くて私は目を閉じる。この感覚を私は知っている。何かが、始まろうとしていた。



 1005  霧の部屋

 室温を2度下げるには、手元のリモートコントローラーの設定温度を変えるだけでいい。一瞬の操作であっという間に部屋の中は涼しくなる。それなのに、私は自分の体温を2度下げるのに、一体何日かかっているんだろう。
 目の前には確かにいつもの光景が広がっているのに、どうしてだろう、まるで瞳の表面に半透明のフィルターが貼られたみたいに、白い靄が私の視界を不鮮明にする。それも、それほど悪くないような気がしている。



 1006  ミルクティーラバーズ

 大好きなミルクティーをお気に入りのカップに注いで体の中から温まる。暖房の効きの悪い冷えた部屋は、ほうっと吐いた歓喜の溜息を甘いミルク色に変える。
 君を目の前にすると、私はきっと緊張のあまり、ついついお喋りになってしまう。いつにも増して饒舌になった私を、君は一体どんな目で見るのか容易に想像できる。私はその冷たい視線を沸騰しそうな思いで受け止めながら、空になったカップにもう一度ミルクティーを注ぐんだろう。



 1007  最後までジタバタしよう

 私ね、本当は、絶対もうダメだって諦めてたんだよ。でも、完全に諦めたくなかった。だからどうせダメなら最後まで抗ってやろうと思ったんだよ。何もしないでじっとしているより開き直った方が、自分に納得がいく。そう思ったの。
 結果はひっくり返った。私はやっぱり最後まで諦めちゃダメなんだって、そう思ったんだよ。



 1008  予感

 何も見えていなかった。一つのものしか見えなくて、それ以外のものは見ようともしなかった。今ならそんな自分を冷静に確認できる。
 私を覆っていた情熱が次々と剥がれ落ちていくのが判る。何かに執着したあとに必ず残る倦怠感が、今、私を包んでいる。



 1009  まだイかせないで

 愛しいと思えば入ってくるし、欝陶しいと思えば出ていく。
 私の中にある君への想いは、君を好きになったり嫌いになったりを繰り返し、私の胸の奥を何度も往復して心の性感帯を刺激する。
 もしも私の心が絶頂に達してしまったら、きっと君への想いは急降下してしまうから、私は絶頂に達する前のどうにかなってしまいそうな感覚を維持するために自分の気持ちをセーブしているだけ。



 1010  懺悔

 私はちっとも「良い人」なんかじゃないよ。平和主義を気取っているだけで、本当は心の中で自分以外の誰かをいつも責めてる。そのくせ嫌われたくないものだから、相手を堂々と責めるようなことも出来なくて、誰かの動きを待ってるだけの、ただの臆病者なんです。



 1011  明日に続く道

 迷いは完全に晴れた訳ではない。方角もよく解らない。けれど私はこの迷いの森を抜け出すと決めた以上、まだ諦める訳には行かない。
 私は、自分の視界を遮断する濃い霧を手で払い除けながら、霧の隙間からうっすらと見える未来に向かって歩き出した。それはゆっくりと、けれど確実に、私に近付いてきている。



 1012  助けてもらってばかりの私

 私はいつも自分でも嫌になるくらい落ち込みやすくて、そんな自分をしばしば大嫌いになる。でも、私の周りは本当にいい奴ばかりで、いつも誰かが私に手を差し伸べてくれるから、私は何とか救われている。
 すごく嬉しかったんだよ。ディスプレイの向こうから私を泣かせた君も、私を救ってくれたいい奴の一人だったんだよ。



 1013  首筋に愛のしるし

 失敗してキスマークを付けてしまう女は、キスの下手な女。見えると解かっていてあえて見える場所にキスマークを付ける私は、独占欲の強い女。
 怒られると一応素直に謝っておくけれど、本当はちっとも悪いとは思っていない。どうせなら、私にも付けてほしいのにと、きっと私は陰で舌打ちをするだろう。



 1014  有言不実行にならないために

 不言実行を地で行く私だったはずなのだけれど。
 相手の挑発に乗せられて、思わず出来るかどうかもわからないことをやってみせると宣言してしまった。ああ、言ってしまったと、後悔めいたものが胸の中でぐるぐると渦巻いている。
 けれど、思わずでもなんでも、自分の責任を放棄するのは嫌な性格なので、こうなったら有言実行するしかない。これも試練なのだと自分に言い聞かせながら、私は今日も前を向く。



 1015  右足を一歩前へ

 あれこれ考えてると日が暮れて、どんどん考え込むと夜が更けて。
 そんな日は早めにベッドに潜り込み、布団に包まって目をつむってしまおう。眠りに就いてしまえばもう何も考えないで済むし、朝は予定通りやってくる。
 考えるだけでは解決しないから、まずは何でもいいから行動してみることだ。動いてみれば何かが見える。考えた結果を実行して、もし上手く行かなければ、また明日考えればいい。じっとしてても何も変わらないんだから。



 1016  追い詰められてからが勝負

 この土壇場で、まさかの大逆転。
 何もかも吹っ切れた人間は怖いものナシなんだってこと、改めて知りました。



 1017  心の一番底

 落ち込むと、気分が心の中の一番下まで沈んでしまうから、私は今、自分が落ち込む時の沈み具合の深さを底上げしようとしている。だんだん底が高くなって、落ち込み具合も浅くなればいい。
 私はもっと強くなりたい。



 1018  そこから私が見えますか?

 朝目が覚めた時点で心臓が高鳴っているのが解かった。ついに今日がやってきてしまった。勝負の日。負ける訳にはいかなくて、沈みそうになる気持ちを今日のために何とか持ち上げようとしてきた。怖くて捨ててしまいそうになる勇気と、自分を信じる気持ちを、あと少し、あともう少し持たせてほしい。
 空の上のキミに祈る。そこから私に勇気を与えて。そして守ってください。



 1019  遠吠えがやまない夜

 誰が始めたのかはもう覚えていない。誰かの突然の行動にみんなが次々と便乗していって、私達の輪はあっという間に広がっていった。その輪の中に存在する自分を確認して、私は安心すると同時に、少しくすぐったく感じた。
 一定の方向からしか見ることが出来なかった人を違う側面から眺めてみる。こうやっていろんな人と関わっていくことで、私は自分の存在を見つけている。



 1020  睫毛に光る真珠の玉

 歯をくいしばると、こめかみの辺りがキーンと鳴った。込み上げてくるものを我慢すると、鼻の奥がつんとした。
 涙は私の睫毛を濡らしたけれど、私の頬までは濡らさなかった。まるで、野草の表面できらきら光る朝露のように、涙の粒が震える睫毛の上でゆらゆらと揺れた。



 1021  もっと優しく触れて

 私は自分を傷付ける人を遠ざけようとして、無意識のうちに防衛反応を働かせてしまう。
 君が私を傷付けるなんて思ってもみなかったから、傷は小さくても痛みは大きかった。私は君との距離を少し開けようとした。これも自分の心が怪我をしないため。
 けれど、私を傷付けたことを本当に後悔している君を見ていると私の心はだんだん痛みだす。それは、針で突かれるような痛みではなく、心臓をわしづかみにされるような痛み。
 償いなのか、君はあれ以来、まるで宝物でも扱うように私に触れる。私の心に出来てしまった傷口を、君は両手で優しく撫でてくれるから、私はなんとかもう一度、君に歩み寄ろうと思い始めている。
 ごめんね。私、もっと強くならなきゃ。



 1022  経過より結果

 一生懸命やれば後悔なんてしない、だなんてキレイゴトに過ぎないよ。
 たとえ自分を褒めてあげたいと思うほど頑張っても結果が出なければ意味がないし、自分が納得いく結果にならなければ悔しいに決まってる。
 誰に、よく頑張ったよと言われたとしても、結局私は負けたんだ。



 1023  笑顔をなくした私

 世の中を上手く渡っていくために努力して身につけた笑顔。毎朝鏡を見ながら自分に向けて微笑んで、ようやく得た処世術。そのはずなのに。
 今日も昨日も一昨日も、私はちっとも笑えなかった。明日こそは笑えるんだろうか。ああ、私、何やってるんだろう。



 1024  私達の痛みはいつ消える

 私はひどい女だと自己嫌悪する。自分が傷付けられそうだからといって君を傷付けて、自分が傷を負うのを避けようとしている。もしかして、私は君に嫌われたかもしれない。私がされたくないことを、私は君にしていたのだものね。
 もしも私の言葉で君を泣かせたのだとしたら、今度は私が君の傷の深さを思って泣く番だ。



 1025  喜びは二人分 悲しみは半分こ

 君を傷付けた応酬なのか、同じような痛みが私の胸を刺した。まるで一つの体を共有しているみたい。君をチクチクと痛めつけると私も痛いから、これからは君に優しく触れようと思った。
 嬉しい時は一緒に喜ぼう。悲しい時は一緒に傷付こう。君と一緒なら、きっと大丈夫だ。



 1026  無自覚の支え合い

 私は一人では立てない。私は、私を囲む愛すべき人達の温かい支えによって立つことができている。その支えがなくなってしまったとしたらどうだろう。きっと均衡を失って倒れ、立ち上がることさえ出来ずにもがくんだろう。
 私を支えてくれている人達は、きっとその自覚はない。だとしたら、私は自分でも気付かないうちに誰かの支えとなっているのだろうか。私を支えてくれている人達の陰の支えになれればと切に願う。



 1027  一歩踏み出す勇気を君に

 君は何に後悔しているのだろう。何が君の歩みを止めさせているのだろう。
 君は道の真ん中に立っている。目の前には少し未来の君が歩いていて、振り向けば少し過去の君が後から着いてきている。
 立ち止まってちゃ駄目なんだよ。辛い時は歩くペースを落としてもいいから、少しずつでも未来に進もう。歩みを止め、過去を振り返っていたら、そのうち過去の自分に追いつかれてしまう。未来の自分に引き離されないように、ほら、まずは一歩踏み出そう。



 1028  鳴り止まないケトルの警笛

 どうやら私の体内には水の入った小さなケトルと、それを加熱する一口コンロが設置してあるらしい。ケトルの中の水面は冷ややかに揺れていて、何かが起こる前の静けさを保っていた。
 始業のベルが鳴る。朝一番に応対した相手が早速体内コンロに点火する。徐々に上がっていく水温。けれど怒ってはいけない。声にはあからさまに感情が表れるものだ。私は鏡を見て笑顔を作り、腹が立っていることを悟られないように努める。
 時々コンロの火を消してくれる相手もいる。そんな人ばかりだと私はいつも心穏やかでいられるのだけれど、なかなかそうはいかない。火は別の相手に再び点けられ、沸点をとうに越えて、水面は再びぐつぐつと煮えたぎる。
 解かってる。私はこれで給料をもらっているんだから、誰にも文句は言えない。けれど、今朝もまだ昨日のお湯が冷めないんだもの。



 1029  潮時

 解かってるよ。ううん、解かってたよ。
 私は一体どんな未来を選択すればいいのか、そしてそれを選択した結果どうなるのか、全て承知した上でそれを望んだ。けれど、予想していた結末は本当に予想通りで、私は想像を微塵も裏切らない自分の直感を恨んだ。
 私は、私自身の乾いた心に涙を落として、自分で自分を慰めるしかない。



 1030  毎日を再起動

 毎日毎日、深夜零時。
「今日」が「明日」にバトンタッチして、「明日」は「今日」になり、「今日」は「昨日」に変化する。
 その日一日に溜まった情報を、日付けが変わると同時にリセット出来たらどんなにいいだろう。私は自分で再起動することが出来なくて、今、システムリソース不足の警告が出る一歩手前まで来ている。



 1031  嘘は弱い者がつくもの

 君の質問に、私は笑顔で否定するしか出来なかった。肯定してしまえばきっと君は罪の意識を感じるだろう。私は、あの輪の中に戻れないただの弱虫なんだ。
 嘘をつくときはいつも心が痛むけれど、この嘘はきっと神様も許してくれるはず。