0701  orz

 アジアンテイストなホルターネックのトップスに、フリンジの付いたブーツカットジーンズを合わせてみた。悪くない。上下とも買ったばかりの洋服で、両方を一度に身につけた私は少しだけ贅沢な気分になる。
 うきうきした気持ちで歩き出した時、初めて気付いた。足を踏み出すたびにフリンジがサンダルの下に入り込み、裾を踏んでしまうことを。高揚感は一気に萎んで、私は思わず俯いた。汚れたフリンジが目に入る。あんなに気に入って買ったのに、身に付けた時はあれだけ嬉しかったのにと、歩き出す前のことを思い出す。その時の私の気持ちは、ずっと好きだった男と付き合ってみて、初めて嫌なところが見えた時の落胆に似ていた。



 0702  始まりの予感

 気を遣って私をちらちら見てくれる彼の視線に、私は気にしていないような素振りを見せながらドキドキしていた。彼は私と話す時、私の目をじっと見つめる。あんまり近くで見つめられると目を逸らしてしまう私は、彼の顎の辺りを見ながら彼と会話する。薄く生えた髭が柔らかそうで、それに触れたくなる。
 私は気になる男が出来るのは早い。けれど、それが恋に発展するのは遅い。それが私の訳の解からない恋愛の特徴。このままこの気持ちが発展してくれたら良いのだけれど。



 0703  諦めの悪い女

 届きそうで届かない夢を掴もうとして手を伸ばし続けるのは疲れるけれど、諦めて腕を降ろす勇気もない。往生際が悪い私は、疲労によって感覚がなくなってしまった腕を震わせて、それでも手を伸ばし続けている。諦めると後で後悔することが判っているから、なかなか腕を降ろすことが出来ないでいる。



 0704  明日が来るまでは

 とりあえず、目を瞑って耳を塞いで口を閉じちゃえばいい。
 嵐が通り過ぎるのを待ってからじゃないと、いくら動き回ってもなんにも片付かないし。今動いたら余計めちゃくちゃになっちゃいそうだし。



 0705  空虚に光る石

 足元を飾るアンクレットが直しても直しても裏返ってしまって、私は憂鬱になる。まるで表の私と裏の私が入れ替わる事実を示唆された気がして。そんな私の憂鬱などお構いなしに、アンクレットのキャッツアイはきらきらと光っている。



 0706  紫色の空が目に染みる

 何度経験しても別れというのは寂しいものだと、紫色をした夜明けの空を眺めて思った。この空はあなたの上まで続いている。ゴミを出しに行くといったあなたも、今この空を見ているのだろうか。あなたの真上に広がる空も、私が見ている空と同じ色をしているのだろうか。
 私はあなたからいろいろなことを教わったというのに、私があなたに何かを教えてあげることは恐らく出来なかった。それが少しだけ心残り。あなたの意志を引き継ぐには、私ではいささか力量不足だけれど、それでも私はあの場所に残り続けていこうと決めている。



 0707  越えられない天の川

 織姫と彦星だって、住む世界が違っても一年に一回会っているというのに、どうして私達は会えないのよと、私は神様に文句を言う。キミはそんな私を見下ろして笑っているんだろう。
 空を見上げて、天国にいるキミを想う。私達の間で邪魔をする隔たりはあまりに大きくて、どうやったって飛び越すことなど出来ない。



 0708  永久保存

 思い出したくもない悲しい過去は、包装紙で包んでリボンをかけてしまえばいい。きれいに包装すれば、どんな辛い記憶でも、そのうち中身なんて忘れて甘く切ないものに変わっていく。
 けれど、その包装を解いてしまっていはいけない。中身は悲しい思い出であることを忘れてはいけない。あくまで並べて楽しむコレクションにしないと、包装紙の向こうに潜む甘い記憶は辛い現実へと姿を変え、再び私を苦しませることになってしまうだろう。



 0709  すれ違ってばかりの欲求

 近頃ちっともセックスをしていないから性欲の処理に困ると、彼は照れくさそうに笑いながら私に言った。セックスをしない期間が開けば開くほど想像が駆け巡り、欲情してしまうんだそうだ。私は興味なさそうにふうんと呟いた。確かに気持ちは解からなくもないけれど。私はセックスをしない期間が開けば開くほど、セックスなんてどうでも良くなってくる。
 私は絶頂に達した直後の、ベッドで呼吸を整えている時が一番欲情している。快感の記憶が薄れてしまう前に、さっきまでの快感をもう一度味わいたいと思う。それなのに、私がもう一回とおねだりをしても、男は全ての熱が剥げ落ちて一番欲情していない状況の最中。私が一番セックスをしたい時に男は一番セックスをしたくない状況だなんて、本当に男と女は面倒くさい。
 彼の話に上の空で相槌を打ちながら、私はぼんやりとそんなことを考えていた。



 0710  雲の上の君

 ゆっくりと目を閉じて、遠くにいる君を想う。
 あの頃、同じ目の高さで同じ世界を見ていた私達は、いつの間にか引き離されてしまった。今では、未だにこんなところでくすぶっている私を、君は雲の上から見下ろしている。
 君は手を伸ばしても届かないほど遠くに行ってしまった。もう、手を伸ばそうなどと考える気力も湧かないほど、遥か遠くへ。



 0711  システムエラー

 きっと土曜日の夜から日曜日の夕方まで、遊びモードのサインばかり送信していたからだと思う。明日からまた一週間が始まるから、仕事モードに切り替えるためにサインを送るのだけど、怠け者な私のシステムはそれを認識しないで遊びモードのデータばかり読み取るものだから、明日から仕事が始まる感覚がちっとも持てない。
 明日の朝、ギリギリになってから慌てて切り替えたって遅いのに。



 0712  アルデンテ

 すぐに何でも夢中になってしまう私。釜で茹でられたような情熱は私自身をどろどろに溶かして、私はいつも熱にうかされ訳が解からなくなる。
 けれど、きちんと芯だけは残して熱くなっているから、私が持っている確固たるものは絶対に溶けたりしない。それが、最後に残った私の自信なんです。



 0713  見るもの全てが新しい日

 腰まであった長い髪をばっさり切った。真っ黒だった髪を明るい色に変えた。体が軽くなる。切り落とした30cm分の髪がいかに重く圧し掛かっていたのかがよく解かる。
 私は、昨日までの自分とは違う自分に生まれ変わったような気がして、真っ直ぐ帰宅するつもりだった予定を変更して街に出かけた。いつもの街並みが、なんだか真新しく見える。道行く人々が私に注目しているような気分になる。全ては錯覚なのだと解かってはいるけれど。



 0714  恋がしたい

 ごめん。どうしようもなく普通の日記。でもって、みっともないほど痛い本音。
 あるサイトのリンクから飛んで、2ちゃんの『電車男』ってログを読んだ。私は2ちゃんってほとんど見ないし、ちょっと怖いなあって印象さえ持ってる。でも、こんなに心温まるスレもあるんだなって、こんなにピュアな人っているんだなあって素直に泣けた。3時間かけて読破して、特に最終章なんてもう最初からいきなり涙が止まらなかったし。
 今まで何人か恋人はいたけれど、ぼろぼろに捨てられたり、二股かけられたりして、もう男なんていらないって吹っ切ってから随分たつ。だけど、眠ってた感覚を突っつかれた気分。
 私が最後にキスをしたのはどのくらい前だったっけ。恋人の首に腕を回して視界いっぱいに見た恋人の笑顔も、車の中でずっと手を繋いでて、普通車は運転席と助手席が遠いから軽にしてよとわがまま言ったのも、もう思い出せないくらい遠い過去だ。
 ああ、どうしよう。制御が出来ない。私、今、すごく恋がしたい。



 0715  おすそわけ

 心の奥に温かいものがじんわりと広がっていく。このまま浸透して、肉体の一部になってしまえば、私はいつまでも優しい気持ちでいられるのだと思う。
 あなたたちがこの上なく幸せだから、私もその気分を少しだけ分けてもらって自分の幸せに変えているのです。



 0716  心、解放日。

 感情が昂って、ついに頂点まで達した時、一粒の涙がこぼれた。一度こぼれてしまうと涙は後から後から溢れてきて、もう止まらない。一粒目の涙が頬に作った道は、後から追いかける涙によって更に濡らされ、私の頬をぐしゃぐしゃにした。
 泣くことを我慢することなく、流れる涙を拭うことなく、私はひたすら自分の感情を解放した。涙は熱いのだということを改めて知る。



 0717  逸らせない視線

 煙草を挟む細くて長い指が、煙を吐き出す唇が、風に揺れる前髪が、私の心をどんどん奪っていく。体温が上がっていくのが判る。
 こんなことでも敏感に反応するようになった私に、あなたはどう責任を取ってくれるんだろう。



 0719  夏の午後の風景

 透明なグラスの中に、はみ出るほどの氷を入れて、冷えた麦茶を注いだ。氷の間を流れてグラスに麦茶が満たされていく。窓辺では、カーテンによって遮られた陽射しが、行き場を失くして困っている。あまりクーラーの効かない生温い空気の中で、冷たい麦茶を飲む。なんてことない風景なのだけれど、私はこんな時間を持つことをとても贅沢だと感じる。
 汗かきなグラスはじんわりと体に汗を滲ませて、今日の気温の高さを私に教えようとしているけれど、夏なんだもの、しょうがないよと言い聞かせて、私はクーラーのリモコンを放り投げた。



 0721  Do myself

 彼女は自分の力では何も出来ない人間でした。何があっても誰かが必ず助けてくれるお姫様のように、自分が何も出来ないことに何の恥ずかしさも後ろめたさもなく生きていました。自分では何も出来なくても、きっと誰かが何とかしてくれると高をくくっていたのです。
 ある日彼女に事件が起きました。彼女はとても困って周囲に助けを求めました。ところがどうにも出来ない状況に周囲の人々はみんな困った顔をするだけで、全く手が出せず、結局誰も彼女を助けることが出来ませんでした。残念そうな顔をする人々の間でおろおろする彼女。彼女は初めて、自分が何も出来ないことに苛立ちを覚えたのです。
 困り果てている彼女を見るに見かねて一人の男が救いの手を差し伸べました。その手は温かくて、孤独な彼女を優しく包み込みました。その時彼女は気付いたのです。何かをしてもらうことが当たり前ではないのだと。自分に出来ることは幾つもない。けれど、自分に出来るほんの幾つかのことは、自分自身でやらなければならないのだと。
 それを知った彼女は、人に頼ることをやめ、例え少しずつでもいいから自分が出来ることを増やしていこうと心に決めたのでした。



 0722  激励の言葉

 何度も何度も挫けそうになった。叫びたくなったり泣き出したくなったりもした。もう駄目だって何度も思った。それでも努力をやめなかった私に、神様はご褒美として「成功」というプレゼントしてくれた。そのプレゼントには、思わず苦笑いしてしまうようなこんなメッセージが添えられていた。
「いつもこのくらい頑張りなさい」
 ハイ、すいません。



 0723  サーフィン

 最近、波に乗ってると我ながら思う。やることなすこと全て裏目に出る時期もあれば、今みたいに何をやっても上手く行く時期もある。こういう時に乗っておかないと、次にいつ良い波が来るか判らない。この機を逃したら転んでしまうことを私は知っているから、私はふらふらしながら何とかバランスを保って波に乗り続けている。



 0724  全部君のせい

 仕事中、書類の整理をしていた時に性欲がむくむくと湧いてくるなんて、私は一体どれだけ欲求不満なのかと自問自答。声をかけられ俯いた顔を上げると、次の仕事を頼もうとしている上司が立っていた。私が今そんな気分になっているなんて全く知らない上司は笑顔で仕事の話をする。頭で考えていることと体で感じていることは別々で、今すごく調子良いんだからダメダメと頭をぶんぶん振って集中しようとする。
 ここのところの私はすごく真面目なんだから、真剣に仕事させてください。



 0725  焼け焦げる休日

 きっと外は暑いだろうと思って、七分袖のシャツのボタンを外し、少しだけまくって玄関を出た。蝉が鳴いている。太陽が、空の一番高い所から私を見下ろしている。
 余りにも陽射しが眩しくて、私は思わず手をかざして目を細めた。ジリジリと鳴く蝉の声が、私の肌を焦がす音に聞こえたような気がして、私はまくっていた袖を下ろした。



 0726  愛は朝、引き裂かれる

 私の上瞼と下瞼はどうしてこんなに仲が良いんだろうと、まだ寝起きのベッドの中、回転の鈍い頭で考えてみる。何度引き離しても、お互いを恋しがってすぐに引っ付いてしまう。私だって二人の邪魔をしたくはないけれど、時計を見るとそういう訳にも行かない。
 私は二人を無理やり引き離すべく、フラフラしながら洗面所へ向かった。冷たい水で顔を洗うと、彼らの熱愛は急激に冷めた。
 ごめんね。今夜また愛し合ってください。



 0727  毎日更新の理由

 私が毎日こうやってテキストを書き続けるのは、書くことをやめるともう何も書けなくなるんじゃないかという強迫観念からだと思う。そして、自分に甘い私は、少しの期間でも書くことをやめると、まだいいや、もういいやと言って、書き始めることをしないかもしれないという危機感も持っている。
 私は書くことをやめたくないから、30分早く起きなければいけなくても、たとえたった一行でも、書き続けることに意味があると信じて毎日文章を書き続けている。



 0728  弱音

 一つの恋を始めるのにはものすごいパワーが必要だと思う。けれど、その恋を終わらせるのにはそれ以上のパワーが必要だと思う。
 生まれても、いつか消えてしまう恋愛に、そんなにも多くの労力を費やすのは今の私にはとても無理で、だったら最初から無駄な労力を使う必要なんてないんじゃないかと考えてしまう私だから、いつまでたっても恋なんて出来ないのです。



 0729  曇りかけた千里眼

 本当に欲しいものはなかなか手に入れられないし、本当に大切なものは失くしやすい。そんなことを今更ながらに知る。世の中は上手く行かないなあと嘆きながら、自分にとって本当に欲しいもの、本当に失いたくないものをしっかりと見極めていこうと、不必要なものに埋もれた私は決意する。



 0730  自問自答

 ねえ、本当に自分はそれでいいの? 絶対に後悔しない?
 そんな風に念を押されると、自分の選択に自信がなくなってくる。その言葉を跳ね返すほどの自信が自分にあれば、そんなこと聞かれることもないんだろうけれど。私を責め立てるもう一人の私を納得させるために、私は自分の意志を再び固めた。



 0731  開かない口

 どうしても君に言いたいことが、どうしても言えないでいる。
 私は臆病だなあとつくづく思う。