0202  キミは今でも私の心の中で生きている

 久しぶりに読んだキミのことを綴った自分の日記は、キミとのお別れを詳細に記録していて、あの日のことをリアルに思い出させた。やっぱり悲しくなって涙が出てしまう。着ていたグレーの無地のシャツは、黒い水玉模様の柄を作った。

 出掛ける時と帰ってきた時、私は必ずキミに声をかける。キミのことを忘れた日なんて一度もない。キミの存在は、こうやってずっと生き続けてる。



 0203  忍び寄る魔の手

 自覚症状はない。けれど、映った影は紛れもない真実だった。
 大丈夫だよね? 大丈夫だよね? 大丈夫でありますように。



 0204  いつか聞いた雪の音

 かさぶたが剥がれた傷痕からは不自然なほど鮮やかな血が溢れていた。
 重力に沿って流れていく血が手の甲から指先にかけて跡を作る。もう片手の人差し指で流れを遮断すると、まるで踏み荒らされていない、積もったばかりの雪を踏んだ時のような、むぎゅっという摩擦音がした。



 0207  化身

 私が書く小説の主人公は、どうしてこんなに素直じゃないんだろう。もっと自分の気持ちに正直になればいいのに。そう思って執筆を中断した。
 だってしょうがないじゃない。あなたが書く物語の主人公は、みんなあなたなんだから。
 誰かがそう囁いたように聞こえた。



 0208  ぐるぐる回る

 いつだってそう。私は空回りすることでしか自分を見出せない。苦しんで苦しんで、自分を追いつめなきゃ、自分の居場所を見つけることができない。もっと要領良く生きて行けたらと思うこともあるけれど、私は痛い目を見なきゃ何も気付かないから、そうやって生きるしかない、そんな不器用な女なんです。



 0210  一緒にいても、一緒になれないのなら。

「好きだけど、お互いが幸せになるために別れましょう」
 毎日一生懸命恋をしていた頃は、そんなのは単なるキレイゴトだと思っていた。バカみたい。好きなら一緒にいればいいのに、って。けれどこの年になってやっと解ってきた。将来に対してシビアになればなるほど、憧れは音を立てて崩れていく。
 今現在、あの頃の私と同じ年齢である彼女は、やっぱりあの頃の私のように、どうしても解らないと呟いた。きっと彼女もあと5年もすれば解るんだろう。
 私達はいつまでも夢を見ている訳にはいかないのだ。



 0211  君に幸せあれ

 今日、晴れの日を迎える君。目の前に続く道は険しくて、時には辛いこともあるかもしれないけれど、愛する人と手を取り合って一緒に進んで行けばきっと乗り越えていけるはず。君はもう遥か長い道のりを歩き始めてるんだよ。
 君の人生の門出を私は心から祝う。



 0212  私に幸せは訪れるのか

 私が女としての幸せを掴むのは、遥か遠い未来か、はたまた夢の中でだけか。いずれにしても、自分でも解かっているのは、近い将来に実現することはまずないということ。
 それはそうだろう。幸せの方からやってきてくれないかなあなんて甘い考えを持っている、自分から進んで動こうとしない私のような女は、そうやってどんどん機を逃していくんだ。けれど、解かっているけれど、自分ではなかなか動き出せないのも事実。ちょっとずつ、焦ってきてる。



 0213  何もかも投げ出したい、逃げ出したい夜

 キミと同じ病気で死んで、キミのいる天国に行けるのであれば、それでもいいかなあと思い始めている。なんの不自由もない世界でキミとずっと一緒にいられるなら、そっちの方が幸せなのかもしれないと思い始めている。
 だって世の中は辛くて悲しいことが多すぎるんだもの。



 0214  失踪届け

 表に出ている私が裏に引っ込んだ時、それまで裏にいた私は表に出る。裏にいた私が、それまで表に出ていた私を裏に押し込めて表に出ようとすることもある。
 サイトでネガティブな文章を書いている時はリアルでは元気いっぱいで、リアルで落ち込んでいる時はサイトの文章がこれでもかってくらいポジティブ。いずれにせよ、上手くバランスが取れていたはずなのだけれど。
 最近の私は表も裏も同一人物。ポジティブな私は、今、どこを探しても見つからない。



 0215  彼女の心配

 せっかく女に生まれたのに、私は女らしく振舞うことも嫌だし、女を磨くことも面倒くさいし、女を実感することもない。今の私は本当に、女である意味がないと思う。
 誰かを好きになると、私は途端に女らしくなる。自分で言うのもなんだけど、男のために甲斐甲斐しく尽くすし、恥ずかしげもなくどこででも甘えるし、いつも『女』してる。なのに、今の私は、生物学的には女というだけで、全く女らしくない。
「あんたに、男でもいればねえ」
 呆れ顔で言う友人の隣で、私はいつもうんざりしながら、男に負けないくらい渋い表情で煙草を吹かしている。



 0217  お皿に盛られた夢

 私はとても空腹で、とにかく何か食べたいと思っている。そんな中、少し離れた所においしそうなディナーが並んでいる。いい匂いが漂っていて、今にもよだれが垂れてしまいそう。けれど、手を伸ばすのが億劫で、私は目の前の、すぐ手の届く所にあるおにぎりに手を伸ばす。ディナーなんてそっちのけで、私はおにぎりを貪る。食べ終わる頃にはお腹も膨れていて、もうディナーに手を伸ばそうとはしない。充分お腹は満たされたから、まあいいや、って。
 後になって、やっぱりディナーを食べておけば良かったと思っても、既にお皿はさげられていて、もう食べることはできない。

 努力するのが嫌いな私は、大変な努力をしてやっと夢を掴んだという経験がない。いつも努力なんてしないで手近なもので間に合わせてしまうから、この年になっても、夢の一つも叶えられていない。



 0218  言葉にしなくても告白

 言わなくったって解かる。大きな瞳が、少し開いた唇が、指の先が、髪の毛の一本一本が、彼女のことを好きだと言っている。
 彼のように、自分の気持ちに正直に生きていけたらどんなにいいだろう。



 0220  君はいかにして私を犯したのか

 数年前、性的な魅力が欠けていた私は、そういう目で見られることに慣れていなかったし、そう見られることに嫌悪感を抱いていた。軽く見られないようにメイクも薄くしたし、派手な洋服も避けた。おかけで周りからは、酒も煙草もセックスも、全てやらなさそうな女に見られていた。
 この年になっても相変わらず私は色気がないまま。けれどあの頃の私と違うのは、当時あれほど嫌悪していた視線が、今では快感になっているということだ。
 男に、私を思って性処理をしたなんて告白されたら、嬉しくて、私の体は熱くなる。



 0221  他でもない自分自身のために

 背中に圧し掛かったプレッシャーは容赦なく私を潰した。冷笑され、憐れみの視線が私に突き刺さる。周囲の人間が私のことを蔑んでいる。
 けれど私は死ぬつもりなんてない。いくらでも酷評すればいい。叱咤も罵倒も甘んじて受ける。『負けて勝つ』という言葉があるように、今は完敗でも、この悔しさを糧に、いずれ必ず勝ってみせる。



 0223  歩むべき道はどこまでも続いてる

 荒れ果てた、広大な大地にぽつんと佇んでいる私。激しい雨。強い向かい風。状況は最悪。
 けれど、たとえ立ち止まりそうになっても、ゆっくりでもいいから歩いていこうと思う。だって、こんなに広い大地のどこに向かったっていいんだもの。傘はある。歩く足も付いてる。前に進む意志だって持ってる。
 このまま歩けばいずれどこかに辿り着くから、とりあえず、とりあえず。



 0224  満員電車に心も揺られて

 突然の急ブレーキにバランスを崩してしまって、読んでいた文庫本を思わず閉じてしまった。同時に、多くの人々は強制的に体勢を変えさせられる。皆、元の体勢に戻ることができないまま、再び振動に身を任せている。
 私の背後に同年代くらいの青年が窮屈そうに立っている。彼も先ほどの衝撃で自分の意志とは関係ない体勢にさせられた一人。私の体の背中からお尻にかけての曲線に、彼の体はぴったりとフィットしてしまって、全く身動きが取れない。甘い匂いがする。耳元で彼の息遣いが聞こえる。
 もう一度開いた文庫本をとりあえず読んでいる振りをして、私は平静を装った。なかなか動揺が収まらない私を、著者紹介の写真の彼女が逆さまのまま私を見て笑っていた。 



 0225  全てを受け入れてくれる愛情

 見返りを求めないのが本当の愛情だなんて言うけれど。
 私はデキた人間ではないので、相手に何かをしてあげる以上何らかの見返りを求めてしまうし、見返りがないと解かっていたら何かをしてあげることもないと思う。どんなに愛情を感じていても、私は相手のことよりもまず自分のことが先。自分に余裕がなければ相手のことを思いやることなんてできない。
 ああ、お母さん。やっぱりあなたの愛は無限なのだと、私はあなたに支えられているのだと、痛いほど感じるのです。



 0226  取り戻した笑顔

 ずっと不安だった。ネットで調べれば調べるほど私の症状は最悪だし、医者の顔の曇りもなかなか晴れなくて、人間はいつでも死の隣で生きているのだと思わずにはいられなかった。
 やっと出た検査結果は、闇からの出口だった。ずっと消えなかった不安が、やっと私の胸から出て行った。



 0227  自分の気持ちが一日を変える

「今日はきっといいことがある」
 そうやって自己暗示をかけて出掛けないと、何もいいことが起きなさそうなので、私はいつも玄関を出る時にそう言い聞かせて一日を始める。



 0228  マゾヒストの気分

 にやりと笑った口元が、決して逸らさない眼差しが、動く指の一本一本が。
 君の仕草の一つ一つが全て卑猥に見えて、私は顔を赤らめながらうつむく。試すような言葉で私を責める君は、間違いなく私以上のサディストだ。



 0229  夢を見させて、今夜。

 うたた寝をしてしまい、やっと目覚めた休日の夜。陽が斜めになって光をこぼしていた太陽もすっかり消えていて、窓の外には暗闇が広がっている。
 夕方がなかった今日を残念に思うよりも、夢の続きを楽しめないことに落胆しながら、私は残りの今日を過ごすことにする。今夜、夢の続きを見ることが出来たら、君は私をどうするつもりなんだろう。