0403 光の射す方へ向かって

 暗くて深い穴の中に落ちてから、一体何日くらい経ったでしょうか。上から射し込む細い光を頼りに脱出を試みたのですが、それに成功しないまま時間だけが流れて行き、苛立つ日々が続いていました。

 現在、やっと其処から抜け出す術を見付けて、出口めがけて必死でよじ登っている状況です。体は傷だらけ、服も泥だらけ。でも、今はどんなに惨めでも、必ずこの闇を抜けてみせる。そう決心した瞬間私が見付けたものは、闇からの脱出手段でした。

 マイナス思考は、自分にとってマイナスに成ることしか生み出さない。だったら無理にでも物事をプラスに考えてみよう。意外にも、突破口はすぐ近くに在るものなんです。



 0404 大人の女

 その雰囲気を持っていないのは自分でも解かっているのですが。

 少しでも女っぽく成りたくて、真っ赤な口紅を思いっきり引いてみました。
 少しでも大人っぽく成りたくて、普段余り飲まないブラックコーヒーを白いカップに注ぎました。

 白いカップに付いた赤い口紅を見るとそんなにも大人っぽく見えるのに、どうして私がやるとこんなにも様に成らないんだろう。そう思いながらカップの中を覗くと、黒い水面には、どう見ても大人に成り切れていない妙齢の女が、ブラックコーヒーよりも苦い笑いを浮かべているのが見えました。



 0405 その優しさと、強さを。

 タンポポのようになれたらと思うのです。
 桜のように綺麗過ぎて近付き難いお嬢様よりも、タンポポのように親近感があって可愛い方がモテるでしょ?そして手に入れたいのです。誰かをふんわりと包み込む優しさと、地面の下に深く根を張る力強さを。



 0408 桃色の花道

 通勤途中の桜並木はもうかなり花びらが散っていて、緑色の葉が半分以上を占めてきています。少し寂しいですが、こんなふうに季節が移り変わっていくのを目の当たりにできるだけ、私は幸せなのでしょう。

 今、私が通るその道は、文字通り桜吹雪が舞っていて、桃色の絨毯が敷き詰められています。それは彼女にできる精一杯のラストダンス。華々しく散る彼女は、最後まで気丈です。



 0409 全ては自分次第

 時間というものは、絶え間なく流れていく水のようです。いくら手で遮断しようとしても、その隙間から流れ出て、決して止まることはない。誰に何の影響も受けずに、ただ流れていくだけなのです。それを早いと感じる人も、遅いと感じる人もいる訳だけど、止めることは決して出来ないこの時間の中で、どれだけ自分が生きている今の一瞬一瞬を輝かせるか。それは自分に委ねられているのだと思います。

 このストーリーを読んで、滲んだ視界の中でそんなことを感じました。



 0410 傷付けられた瞬間

 私は誰かの何気ない言動で傷付く時、鋭いナイフで一番痛いところをザックリとえぐられるという痛みではなく、歯茎の奥で急に痛み出した歯痛のような痛みが心の中に生れるのです。それは、熱を持ち、ハッキリとどの部分が痛いかは解からないのだけど、確かにその辺の何処かが痛いことだけは解かるという、曖昧且つ我慢の出来ない痛みです。その痛みは心の一番奥の、端から見ると本当に解かりにくい場所でドクンドクンと脈を打ち、次第にズキンズキンと痛みの種類を変えて行きます。それによって、私は自分の血管に熱い血が流れていることを再確認します。

 いずれにせよ、相手は私を傷付けたということに、きっと気付いていないと思います。



 0416 バニーガール

 彼女の透き通るような肌は兎のように白く、彼女の泣き腫らした瞳は兎のように赤いのです。

 このまま彼女を放っておくと淋しくて死んでしまいそうだったので、私は彼女に声を掛けました。そんなに臆病に成らないで。あなたは一人じゃないんだから。すると彼女は少し引きつった微笑みで、私を見つめました。それは今の彼女に出来る、精一杯の強がりの笑顔。その時、ほんの少しだけ、肌は赤みを取り戻し、瞳は赤みを失ったように見えました。

 うん。そうだよ。それで良いんだよ。



 0419 心のヨリドコロ

 落ち込んだり、悩んだりすることが多いんです。
 だからその度に、この場所で吐き出すんです。
 それでスッキリするから救われるんです。

 この場所がなくなってしまえば、きっと私の心のバランスは崩される。だからこの場所を守ることは、私の心のバランスを保つことと同じなんです。



 0421 一瞬の隙にするキス

 思い出すことがあるんです。短大に入学したての頃によくドライブに連れて行ってくれたあなたを、この季節になると思い出すんです。

 私以外の女を決して助手席に座らせようとしなかったあなた。赤信号に引っかかると決まって私の方を見て合図してくれるのが嬉しかった。その信号待ちの僅かな時間の間にキスをして、唇を離して見つめ合った時に見せるいたずらっぽい表情と、その時にあなたの髪からいつも漂ってきた太陽の匂いは、今でもたまに思い出します。

 所謂、青春の一ページってやつです。



 0422 いつか思い出になっても

 今、この瞬間が幸せだと思っても、それは1秒後には過去になっていて、今を大切に生きたいと思っていると何だか悲しくなってきます。
 今、この瞬間が辛いと思っても、それは1秒後には過去になっているから、今は我慢の時だと自分を励ますことが出来るから救われます。

 いずれにしても、今、この瞬間しか体験できないことを積み重ねて、私たちは生きているのでしょう。すぐに過去になってしまうから、今見ている物、今聞いてる音、今感じている事、それらを大切にしないといけないんだなあと、ふと思いました。



 0423 キミの大好物

 キミの好きそうな新商品の缶詰をスーパーで見かけたので、今度GWに帰る時に持って帰ろうと思います。あっちではちゃんと良いものを食べているかどうか解からないけど、たまにはササミの極上品を食べてもらいたいんです。キミがいなくなっても、私のスーパーでの巡回路は変わらず、まず最初に缶詰コーナーを見てしまうんです。

 この高揚感。もうすぐ会える。早くキミに会いたいのが自分でも解かります。だって、ほら、久しぶりだからね。



 0424 欲求不満

 理性と本能について、最近こんなふうに思えて仕方無いんです。人の心の一番深い場所には、箱が置かれている閉ざされた空間があるんです。それはどんな人でも持っている、決して人に見せることのない場所なんです。

 例えばそれは、鍵の掛けられたバスルームのような空間。本能という浴室には理性という浴槽が置いてあって、蛇口からは色々な欲求がとめどなく流れ出てるんです。各々の浴槽の大きさは違い、水を溜める許容量も人それぞれ違います。そして蛇口から流れ出る水も、雫が滴る程度から、水圧で蛇口のパイプが持ち上がってしまう程の勢いまで様々です。そして、その浴槽にはきちんと排水口が有って、そこから常に水は排出されているのです。言わば欲求不満のはけ口。ただ、そのバランスが崩れて、排出される水の量よりも蛇口から流れる水の量が多くなると、浴槽の水面はどんどん高くなっていくのです。

 一つだけ確かなのは、私の浴槽は今、表面張力を壊して今にも水が溢れそうだということです。



 0425 私の涙の主成分

 以前のように、悲しみの涙を流すことは少なくなりました。ただ最近は、一番心配されたくない人の前で、いつも泣きそうになってしまうんです。安心してしまうんです、その人の前だと。心配されないように我慢する涙は安堵の涙なんて、逆説的で不思議な感じがしますが。あとは、先日小説を読んで感動して泣きました。良いものを見たり読んだりすると、目だけではなく、心が潤います。

 そんな訳で、私の涙は、8割がたプラス方面の涙です。自分でも良い傾向だと思います。



 0427 今日も全力疾走

 息切れしない程度に頑張れば良いのですが、私の場合、自分のペースが掴めなくて、どうしていいか解らずに全力疾走するものだから、いつも途中でバテてしまうのです。でも、そのペース配分が解からないから、結局、突っ走ることしか出来ないんです。ただ、そうすると、疲労がピークになった時、すごく気持ちのいい瞬間がやってきて、またそれを越えると辛く苦しい瞬間がやってくるんです。その繰り返し。

 でも、快楽と苦痛の波の間で彷徨っていると、だんだん自分が何をやるべきか解ってくるのです。自分に出来る最善を尽くせば、大抵努力は報われるものです。だから私は今日も突っ走るのです。



 0428 ニュートラル ポジション

 いつも、いつでも、いつまでも、キミが其処に居てくれるから、私も安心して此処に居られるんです。だからずっと其処に居て。此処で頑張っている私を見ていてください。



 0429 月光に照らされて

 タバコを買いに、ふらっと出掛けた午前4時。雲の向こうに隠れようとする月はそのすごいスピードに着いて行けなくて、なかなか雲の裏に姿を隠すことが出来ずに明るい光を地上に撒き散らしていました。恥ずかしそうに光る月は漆黒の空に映えていて、こんな時間でも割と明るいことに驚きながら歩いていました。

 2時間ぶりにタバコに火を点け、思いっきり肺に吸い込みます。吐き出した煙はいつもより白く、一瞬だけ月を隠しました。背中を向けて帰路を急ぐと、月は私の背後から再び光を放ち、私の行く先を照らしてくれました。



 0430 ナチュラルアート

 雨宿りの軒下。さっきから止みそうにない雨が私の髪を濡らして、毛先から滴り落ちた水滴がアスファルトの地面にドット柄の模様を次々と作ります。そのシミはじわじわと広がって軒下から抜け出し、濡れた地面と一体化するのです。シミが連れてきた泥は濡れた地面と混じり合い、グレーのキャンバスにはダークブラウンを基調としたマーブル模様の絵が徐々に出来上がっていきます。中々出せない微妙な色合い。すぐ目の前に突然創られる芸術もあるんです。偶然に出来た作品をタイミング良く目撃するのも、また偶然。

 広島は連日雨。梅雨の季節はまだだというのに。