蒼い溜息 紅い吐息





 顔面を蒼白させた俺の溜息はクミの耳に届いて、彼女をだんだん苛立たせた。
「で、どうするのよ。もしデキてたら責任取ってくれるの?」
「そんなこと言われても、突然すぎて…」
「ヒロヤのそういうところが嫌なのよ。男でしょ?」
 テーブルの上には判定中の妊娠検査薬が横たわっている。時間の流れが永遠に感じるほど長い。

 確かに俺はクミのことが好きだし、付き合いもそこそこ長いし、お互い社会に出て何年も経ってるいい大人だし、結婚するのも悪くはないかもしれない。ただ、予想していなかったことが急に起こって、俺はパニックしていた。妊娠していたとしても、それが嬉しいとか迷惑とか思う以前に、だただた突然のことに動揺していたのだ。
 生理が止まって3ヶ月らしい。妊娠の可能性は高い。

「私はヒロヤと一緒になってもいいよ。」
 いつもは勝気で男勝りなクミがそんなかわいいことを言ってきた。もちろん俺だって、いずれ別れるつもりでクミと付き合ってる訳じゃない。いつもクミには男らしくないとか優柔不断だとか散々言われているけれど、俺は俺なりにクミのことを大切に思ってるんだ。もし子供が出来てたら…。
 俺は覚悟を決めた。
「お前が俺でいいんなら…」
「あー!」
 俺が覚悟を決めて発した言葉をクミはいともたやすく遮った。検査薬を握り締めたクミは立ち上がったまま動かない。
「どうだった?」
「……デキてない。」
「え?」
「妊娠してない。」

 安心しきった俺達は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、何がめでたいのか乾杯した。あんな強気なことを言ってたクミも、本当はかなり動揺していたのだろう。自分の体の中にもう一つの命があるということは、クミにとってはまだ重かったのだろう。
「ねえヒロヤ、さっきの話の続き。」
「ん? なに?」
「もし私が妊娠してたら、結婚するつもりだった?」
「まあな。」
 突然クミが抱きついてきた。俺の胸に顔を押し当てている。こいつ、こんなにかわいいやつだったっけ。そういえば付き合い始めた当初はこんな風によく俺に甘えてきたっけな。
「なあクミ。ベッド行こっか。」
「うん。」



 頬を紅潮させたクミの吐息は俺の首筋にかかって、俺をどんどん高めた。
「今日は大丈夫な日だよ」
「え、でも…」
「お願い。中に。」
 ベッドの上では裸になったクミが俺の隣に横たわっている。時間の流れが一瞬に感じるほど早い。

 クミの感じ方がいつもより激しい。これじゃあ俺だってもたない。汗ばむクミの体をしっかりと抱き、俺はその射精感を我慢することなくクミの中に放った。

 俺の腕の中で脱力しているクミ。俺はそんなクミの頭の上に顎を乗せて、更に密着するように抱き合った。
「これで妊娠したら、今度は本当に責任取ってもらうからね。」
 クミは軽く笑って目を閉じた。俺はクミの髪を撫でながら、貯金はいくらあったっけなあと、ぼんやり考えていた。




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